発震行動:家庭編          ヤルデア研究所 伊東義高

     

前提条件:土地…内陸部の地方都市、平坦原野の造成団地、湿気の少ない土 (津波・崖崩れ・液状化現象などは起きない地勢・地形といえる)  建物…築10年(建築基準法改正後の建築)、庭付き木造2階建て (基礎・壁・筋交いなど法定基準に合致。隣近所との延焼はない) 間取…1階=台所・居間・和室、2階=寝室・子供部屋2・納戸      (玄関・廊下・トイレ・浴室・階段…を含めて標準的な建築仕様)  家族…夫40歳会社員、妻37歳専業主婦、長女10歳、長男7歳        (夫婦ともに平均的な市民で、一度だけ地震防災の講演を聴いた)      時期…200I年12月22日(土)、午後5時30分。全員在宅の時 (夫は居間でテレビ、妻は台所で炊事、子供は2階で勉強・遊び)  地震…遠隔の海溝型大地震、本震は震度6(300ガル)約50秒間       (よほど条件が悪くない限り「建物崩壊・瞬間圧死」は起きない)    夫の行動: テレビを見ているときにガタガタと揺れを感じた。とっさに大声で「地震 だ!」と叫んだ。続いて台所の妻に「火を消して、潜れ!」、二階に向かって 「慌てるな、机の下に潜れ!」と怒鳴りながら、傍らの石油ストーブのスイッ チを切り、身をソファの横に伏せて、クッションで頭を覆った。  夫は自分の大声の命令的発声(攻撃的行動)により、恐怖に負けない意識を 保つことができ、周辺の物の動き方を観察していた。床上のテレビが小刻みに 揺れている。本棚の本が小さな軋み音を出している。  ガタガタが収まった。台所と子供部屋に向かって「まだ安心するな、そのま ま、そのまま!」と叫んだ。ややあって、先ほどより激しいグラグラが襲って きた。床上のテレビは踊りだしたが後ろでチェーン繋ぎしてあるので走ること はなかった。本棚の本はかなり崩れ落ちたが、本棚本体は壁に固定してあるの で倒れることはなかった。照明とテレビはすぐに消えたが、窓から差し込む光 で室内はぼんやりした明るさであった。そのときカン高いきしみ音とともに居 間の引き戸のガラスが割れたが、いつも引いているレースのカーテンのおかげ で破片が室内に飛んでくることはなかった。石油ストーブの倒れる音がしたが 何事も起きなかった。天井灯も大揺れしたが釣り糸で止めてある。ソファも踊 ったが倒れなかった。 揺れが収まってから全身を撫で回して自分に負傷のないことを確かめた。す ぐに本棚の引き出しから懐中電灯を取り出し、スリッパを履いてから、キチン の妻とともに2階の子供の様子を見に向かった。 妻の行動: 妻は夕飯の支度で大忙しであった。野菜サラダを刻みながら、片方でアジの  フライを揚げていた。炊飯器は噴いているし、スープ鍋は出来上がっているし …あと一息というところであった。      包丁と腕と体が同時にガタガタとゆれた。「あら、地震だ!」と思った瞬間、 隣の部屋の夫の「火を消して、潜れ!」声が聞こえた。“そうだわ、まず火を消 すんだわ!”…揺れもそれほどではないし、夫の頼もしそうな声も聞こえたし …先ごろの地震防災講演会でのこともチラッと思い出して…彼女は慌てずにガ スレンジの火を消して、傍らの食卓の下に潜ったら、揺れが止んだ。“あら、も う終わったようだわ”…と出ようとしたら、「そのまま!」という夫の声に思い 留まった。そしたら激しいグラグラが襲ってきた。食卓が踊りだし、体が横揺 れしだし、慌てて食卓の足を両手で抱きしめた。  まもなく天井灯が消え、不気味な音や物の砕ける音が入り混じった音がして、 暗闇の中を何か動きだした。食器棚は壁に固定してあるし、冷蔵庫は裏壁に鎖 でつないであるので、倒れたり飛び出したりして来ることなく、ただがたつく だけだった。やがてはっきり瀬戸物や硝子の割れる音と分かる大きな音が周り の床の上で続いた。しかし、食卓がシェルターとなって、彼女の身の上には何 も落ちてこなかった。  彼女は食卓の足にしがみつきながらガスレンジから火が出ないかを見続けて いた。そして、もし何かが燃え出したら裏口傍の消火器を使うことを考えてい た。“いやいや、ちょっとした火なら、流しの出窓下においてあるスプレー式 簡易消火器で十分だわ…”とかなり落ち着いていた。  わずか数十秒の揺れだったが、彼女には大変長く感じられた。気になる子供 たちについては、先ほど夫が二階に大声で指示していたから“きっと大丈夫だ わ”と信じていた。 子の行動: 長女と長男の子供らは2階の各自の子供部屋で宿題やゲームをしていた。子 供部屋はほぼ同じ仕様のフローリングの洋室で、窓に面して本棚を隣にして勉 強机が置かれ、横壁には木製ベッド…がある。  “あっ、地震だ…”と思ったらすぐ、ドア越しに階下の父の声が聞こえた。 普段から地震の時には机の下にもぐりこむように言われていたが、長女はちょ うど面倒な計算途中で、長男はボス・モンスターと決闘中であったので、“えっ、 これくらいの地震でも…”と狭い机の下への潜り込みをためらっていた。  しかし、やがて突き飛ばされるようなグラグラの襲来にあわてて勉強机の下 に這って潜り込んだ。机の上の小物や本棚の本や模型などが音を立てて落ちだ した。机・本棚・ベッドは夏休みに父の手伝いをしながら壁止めしてあったの で、がたつくだけで倒れてはこなかった。  停電後も部屋の中のがたつきは続いた。窓ガラスがビシッと音を立てたが、 母が貼ってくれた飛散防止フィルムのおかげで部屋の中には飛んでこなかった。 傍の窓の戸の隙間から、近所の家の騒ぎ声が聞こえてきた。“大変なことになっ ている…”といった恐ろしさから、勉強机の下で頭を抱えて、何もできずに地 震が収まるのを待っていた。  大揺れが収まっても怖くて、勉強机の下から出られなかった。そこへ父と母 が見に来てくれたので、安心と嬉しさに長女も長男も半ベソをかいてしまった。 行動診断・ いつも強いグラグラ(S波)の前に弱いガタガタ(P波)があるのではない。 ・弱いガタガタ(震度4〜5弱)を甘く見ず、グラグラを想定することである。 ・弱いガタガタでは火を消し、強いグラグラでは火を消すよりも先ず身を守る。 ・ガスコンロやストーブが火災になっても、地震直後に消火器で容易に消せる。 (誰でも容易に使える、最近売り出しの「スプレー型消火器」を推奨する) ・身を隠すのには四足テーブルが最適だが、炬燵・ベッド・ちゃぶ台でも良い。 ・テーブルの下に入ったらその足をしっかり握ると体と心の動揺が抑えられる。 ・体が入りきれない炬燵・ベッド・ちゃぶ台などでは頭だけでも潜り込ませる。 ・近くに机・テーブルがない場合は固定してある家具の横側で低くうずくまる。 (家具の前面は収納物が落下・突出したり、固定器具が破断し家具が転倒) ・閉じ込めを避けるために玄関の扉を開けに行くことは却って危険行為である。 (家の東西の出入り口が開かなくなっても、家の南北の出入り口の扉は開く) (激震中に玄関に急げば転倒負傷・器物激突の危険、開けた扉もまた閉まる) ・強い口調の命令は相手に心強さ・服従を、自身に落ち着きを呼ぶ攻撃の効果 ・最適の発震時行動のためには日頃のイメージ訓練と家具類の耐震固定である。 ・「落ち着いて行動せよ」は無益の教訓…突然の激震に不安・恐怖・混乱する。 ・「臨機応変」は凡人には無理…ベターを捨てて、ワーストを避けるのが鉄則。 ・「発震時10則」は多すぎる…1がベスト、2がベター、3がマックスである。

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