発震行動:事務所編…総務部…          ヤルデア研究所 伊東義高

     

前提条件:土地…内陸部の地方都市、平坦原野の造成団地、湿気の少ない土 (津波・崖崩れ・液状化現象などは起きない地勢・地形といえる)  建物…築20年(法改正後)、鉄筋コンクリート22階ビル・12階 (地震倒壊は先ず考えられないが、中高層の横揺れの幅は大きい)  部屋…役員室・総務部・営業部・資材部・会議室・応接室・書庫      (中央廊下の左右に各部屋が配置、給湯室・トイレ・階段2箇所)  総務…総務部室の東側から総務課・人事課・会計課で総員25人        (各課とも壁際に書棚類、事務机は田の字配列、机上にパソコン)      時期…200I年3月12日(木)、午前10時30分。通常業務の時 (電話する者・記帳する者・パソコンする者…大半が若いOL達)  地震…直下の活断層大地震、本震は震度6(300ガル)約40秒間       (予告なしに下から突き上げる衝撃、建物や器物は激しく上下動) 総務課長:生え抜きの58歳、業界新聞を読んでいたら下からドカン! 老眼鏡が落ちか     かった。声も出ずに机にしがみついた。机の上の電話や書類箱が乱舞落下した。   “地震だ!”と気付いて課内を見渡したら、音机・書類・人間が踊り、不気 味な建物のきしみや器物の激突音が聞こえた。人の声はない。総務課長は瞬間 に防災講習会を思い出し、大声で怒鳴った。「地震だ!机の下に潜れ!」と揺れ る机を抑えながら3回続けて怒鳴った。一瞬、課長の顔を見た課員たちは自分 の机の下に入りだした。それを見届けて課長も潜った。  すぐに照明は消えたが、昼前で部屋の中は明るい。天井板の一部が破壊剥離 しかかっていた。課長席横の応接セットは暴れまわっていた。揺れは続く。ハ ラワタも踊る。頭が机にぶっつかる。痛い、怖い。長い…と思った。課長は机 の下からまた怒鳴った。「みんな頑張れ!動くな!掴まってろ!」課長の大声に 課員10人の男女は声も出さずに机の脚を握っていた。 女性課員のデスクの後ろの壁に並んでいるロッカーの扉は開き、中の書類は      悪魔の蝶のように部屋の中を飛び交ったが、ロッカー類は壁固定してあったの     でガタツキと横ずれをしただけで転倒することはなかった。天井板の一部が蛍 光灯とともに落下したが、事務机の上で跳ね返っただけであった。  揺れが収まって、課長が全員を点呼・確認したところ、負傷者は一人もいなか った。田の字型事務机の脚を縛ってあったおかげで、セットかされた机は倒れ ることもなく、課員たちの頼もしいシェルターになってくれたのであった。机 上のパソコンも机に連結してあったので、一つも落ちてはいなかった。 会計課員:人事課の反対の西側に位置する会計課は総員7人である。課員のAは中年・中 堅・中背の女性である。パソコンを使って会計計算をしているときにドカンと来 て、キーボードがめがねに触れるほどに飛び上がった。驚きと恐ろしさに声も 出なかった。両手で胸を押さえ、首をすくめ、硬くなって下を見ているだけで あった。  やがて、机上のパソコン・書類・文具が踊りだし、後ろのロッカーから放り出 された書類が彼女の高等部や背中で激しく跳ね返った。「痛!!」思わず声を呑 んだ。隣の若いOL課員のBが「キャ〜ッ」、向かい側のOL課員のCが「怖い 〜っ!」と悲鳴をあげた。この声が合図になって会計課の小さな職場集団はパ ニックに陥った。てんでにわめきながら、あるものは机にうつ伏せになり、あ るものは歩き回り、あるものは机の下に潜り込みし始めた。  揺れが収まってからお互いに顔見合わせてみると、一人は小物の落下激突で 手首を切り、一人は砕けて飛んだ窓ガラスの破片で頬を切った。もう少しで目 を切るところであった。ロッカー・デスク・パソコン類は総務課同様に大方は 無事であった。 人事課員:人事課は総務部質中央の8人所帯である。2人は現場に行き、二2人は別室 で打ち合わせ中、4人がデスクで執務をしていた。人事課員Aはちょうど分厚 い書類をロッカーに仕舞おうとしていた。ひざを折るようなドカンの突き上げ に抱えていた書類を落としてしまった。  “そうだ、出入り口の確保だ!”と被害側のドアに向かって小走りし始めた。 地震で床は水平に揺れ、上下に踊る。いつもの感覚では走ることも歩くことも 困難である。陸上部出身の課員Aも何度もよろけ、何度も躓いた。途中で書類 や事務用品が待ってくるし、ロッカーの扉や引き出しが行く手を遮る。恐怖は ますます募り、口はカラカラとなった。  ようやく出入り口に到達した。重い扉はガタガタ軋んでいた。思い切って押 したら大扉は開いた。“あ〜良かった”と手を離したら、扉はまた戻って来た。 また開けてまた閉まった。“こんなことやってられない”と逃げ出した。廊下 には多くの社員がわめき、逃げ惑っていた。揺れは続いていた。  人並みに紛れ込み、階段を降り始めた。「グヮッ」と衝撃が来た瞬間、コンク リートの階段が折れた。何人かが振り落とされた。埃が舞い、血が飛び、悲鳴 が響いた。彼も放り出され、腰骨を強打・骨折し、失神しそうになった。     <この事務所での地震人身災害の主な現場はこの階段部分だけだった。> 行動診断・総務課長の機先を制した大声の指示命令は危機管理の要諦を示すものである。 ・地震による生理的恐怖感と大声の心理的安心感、逃避と依存の兼合いである。 ・総務課のOL達は咄嗟に「頼れる声」に従い、狂乱に走らずに秩序を保てた。   ・会計課のOL達は悲鳴が口火となって集団がパニック状態になった例である。 ・パニック状態で誰かが逃げ出すと、みんなが雪崩を打って危険な逃げに走る。 ・また会計課の諸設備に地震対策が施されていなかったなら大被害だったろう。 ・人事課の元気な課員の行動は一見模範的だが、大きな安全問題を含んでいる。 ・中高層階では地震でビル躯体が歪み扉が拉がれ開閉できなくなることはある。 ・しかし、それほどの強さの地震ではまともに歩けず、扉の保持も困難である。  (保持するには扉と床の隙間に何かを噛ませるのだが、瞬時対応が可能か) ・強い地震の最中に逃げまどうことはどんな土地・建物でも大変に危険である。   ・階段部分は応力バランスが歪み大きな圧壊力を受け破壊され易い箇所である。 ・建基法改定以降のビルでは先ずは倒壊しないものと決めて掛かることである。 ・社長が社長室に在室していても、何の有効な指示命令もすることはできない。 ・社長が社員の生命を地震から守るとは、その時ではなくそれより以前である。     ・上例では事務機器類の地震対策があったればこそ、あの程度で済んだのである。         

トップへ戻る


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送