発震行動:現場編…機械部品製造…          ヤルデア研究所 伊東義高

     

前提条件:土地…三浦半島の沿岸都市、埋め立て造成地の工場と岸壁 (津波・液状化現象などは避けられない地勢・地形といえる)  建物…築50年(法改正前)、鉄骨スレート構造、1階建て5棟 (基礎・鉄骨の老朽から地震倒壊の怖れ、スレート屋根・壁の破壊落下) 設備…重油加熱炉、プレス機、旋盤、フライス盤、ドリル、ベンダーなど      (コンクリート床にアンカー止めと直か置きが半々。配線・配管…)  人員…資材課、加工課、組立課、検査課、出荷課…で総員250人        (各課とも作業位置が固定的、熟練社員が主で一部に臨時工)      時期…200I年10月10日(水)、午後2時30分。通常作業の時 (機械操作中の者、手作業中の者、設備・製品検査中の者…)  地震…予想されていた東海地震、本震は震度5(200ガル)約40秒間       (前震に続いて本震、建物や器物は激しく上下動、津波高さ約1m) 炉前工(A):ベテランの55歳である。重油式加熱炉の前蓋を開閉して、ベビーコンベヤー で材料の鋼鉄片を炉内に出し入れしている。炉の調子は快調で、青い炎は軽い音 を立てて鋼鉄を赤く焼いている。    ゴトゴトと体が揺れを感じた時、青い炎も軽く揺れ動いた。「たいしたことは ないな」と感じながら辺りを見渡した。積上げられた鋼材は軽くゴトゴト動いて いるものの、倒れる様子もない。あちこちで小さな異常音がしている。  息を抜く間もなく、グラグラッと激しい揺れが工場全体を襲った。材料の鋼材 の山は激しい音を立てて崩れだした。跳ね返った鋼材の一つが足に当った。工場 全体は大きな軋み音を出しながら波打ち、あちらこちらでスレートや硝子が割れ て落ちる音がした。「ヤバイ」と思った時に停電した。薄闇の中で、炉の炎は黄 色も混じって大きくなり、左右に踊り狂った。反射的に、傍らの操作盤の燃料元 バルブ(炉内燃料の重油供給管の元弁)を捻って火を止めた。  大揺れが収まってから、加熱炉の重油弁・酸素弁の遮断を再確認し、鋼材が散 乱する床を縫いながら炉前を離れ、出口に向かった。途中、手の出血を抑えなが ら青ざめた顔をした入社間もない工程管理課の社員に声を掛け、外に誘った。 外にはかなりの人が出てきていたが、点呼を取る人はいなかった。 旋盤工(A):彼は40歳代の働き盛りである。旋盤で鋼材を寸法通りに切削する腕は社内 でもトップクラスである。顔を近づけ、目を凝らして精密な削りをしている時に ゴトゴトッと来た。揺れは小さくても、作業が緻密なので直ぐ異常と感じ、背を 伸ばした辺りを見回した。いつもの工場の風景でこれといって変った様子もなく、 作業員仲間のわめきも聞かれなかった。旋盤はいつものように低いうなり声で回 っていて、異常音はしなかった。 小止みになったところで、再び削りの構えに入ろうとした時に膝を折るような 激動が襲ってきた。「これは大きい」と思った時に、頭の上からなにやら降り注 いできた。(スレート屋根の破片だったことが後で分った)その一つが旋盤のチ ャック(切削材料を掴む部分)に当ってキーンという音とともに砕け散り、その 破片が顔に当った。目に当れば大変なことであった。傍らの切削材料や切削仕上 り材の山は崩れて、床に散った。 停電になって、あたりが薄暗くなり、旋盤の回転音が低くなった。見渡すとあ ちらこちらで物が激突しているのか火花が散り、金属音が聞かれた。動くに動け ず彼は旋盤の横にうずくまった。旋盤は床と共に上下・左右に震えたが、アンカ ーボルトで床に固定してあったおかげでそれ以上のことはなかった。揺れが長っ て周りを見渡すと、仲間達はぞろぞろと出入り口に向かっていたので、彼も旋盤 をそのままにして、中庭に向かっていった。 玉掛工(A):木箱に梱包された製品(どれも数十キロの重さ)を天井クレーンを使ってト ラックに積み込むのが彼の仕事である。木箱を包んだロープネットをクレーンの フックに掛けて、クレーン運転手に向かって「巻上げ」の手合図をして、吊荷が 床を離れた時にグラグラと来た。吊られて揺れている吊荷は地震のゴトゴトで様 子が変ることはなかった。クレーンの運転手は気付いていないようだったが「教 えることもあるまい」と次の吊荷の準備に移ろうとした。    地響きとともにグラグラッと強い震動が来た。高く詰まれた傍らの製品の山は ガラガラッとばかりに崩れ落ち、箱が砕けて機械部品が飛び散った。彼の顔面を 掠めて飛んでいった木箱もあった。声も出なかった。どうしようと思った時に照 明が消え、薄暗くなった。製品のなだれは続いていた。どちらに逃げようか迷っ た。辛うじて近くに止まっていたフォークリフトの運転席に逃げ込んだ。(フォ ークの運転席の天井には天蓋があったおかげで、天井から落下してきたスレート の破片からも身を守ることが出来た)  大揺れが収まってから、大急ぎで製品倉庫の外に出た。そのときはクレーン運 転手のことは全く頭になかった。 起重機運転士(A):彼は天井クレーンの運転免許を取ったばかりの新米運転士である。玉 掛工の「巻上げ」合図で荷を巻き上げ、トラックの方に走行しかけた時に玉掛工 が妙なそぶりをしたが、別段の合図もなかったのでそのまま運転を続けた。  トラックの近くに来てブレーキ(電気式)をかけようかと思った時に、大音響 とともにグラグラッと激しい揺れが襲ってきた。「何だこれは?」と見渡すと製 品の山が崩れだしていた。「これは地震だ!」と寒気を感じた時に停電した。慌 ててブレーキをかけたが利かなかった。一瞬パニック状になりかけたが咄嗟に機 械ブレーキをかけて壁への衝突を免れた。壁数メートル前のところで止まったク レーンはその場でうねり上下にきしんだ。クレーンが外れて落ちるのではないか と思い、生きた心地はしなかった。  しばらくして揺れは収まり、クレーン運転台も落ち着いた。吊荷はまだ大きく 揺れていた。東西の壁際には昇降タラップがあるので、彼はそのまま運転室を出、 クレーンを降りて壁際のガーダーを注意して渡って、地上に降りた。吊荷がその ままになっていることは忘れていた。今は無停電電源装置のおかげで巻き上げ機 の制動は利いているもののいずれ緩んで落ちる。  戸外に逃げて仲間の顔を見て一安心して、喋り捲っていた。 行動診断・このケースは弱いP波震動の後に強いS波震動が来る遠隔地大地震である。    (このケースのように、大地震の前にいつも弱い揺れがあるとは限らない) ・炉前工が激震中に火を消せたのは「熟練者+元弁の近くにいた」ためである。 ・停電で休止した旋盤は通電と共に回転をする。即刻通電の場合は危険である。 ・無停電電源装置のように緊急対応装置等はバッテリーの容量に限りがある。 ・スレートやガラス片が落下したのに負傷者の少なかったのは安全棒のお陰。 ・大地震の後、石油・ガスの配管や電気の配線の被害によっては二次災害の恐れ。 ・スレートの屋根・壁やガラス窓の破損状況によって、余震落下の恐れがある。 ・鉄骨スレート構造の建物では固定作業位置での設備的な落下防止対策が必要。 ・屋外避難の後、責任者は避難者を職場別にまとめ点呼をとり本部に報告する。 ・海岸や大川の岸辺では地震後の津波に備えた行動指針を徹底しておくこと。 (津波来襲の有無、予想襲来時刻などはラジオやテレビなどの情報で知る) (津波の高さが低くても海底や海岸線によってかなりの高さに盛り上がる)   (津波からの避難は「遠くに逃げる」よりも「高くに逃げる」ことである)

トップへ戻る


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送