企業版「地震なんかで死ねるもんか」     ヤルデア研究所 伊東義高


1.地震対策の目標設定  三日分の水や乾パンを揃えて「地震対策をしています」と構えているのは自分に対して、職場仲間 に対して余りにも無責任かつ手抜きなことではないだろうか。水や乾パンは地震で生き延びた人が必 要とするものである。死んだ人や大けがをした人には不要である。水や乾パンの前に、まず自分や仲 間が地震で死なないこと、大けがをしないことを考えるのが順序ではなかろうか。  そう突っ込まれると多くの経営者や担当者は次のように答える。「何をどうすれば絶対に助かるの か分らないもの…」「ガラガラッ〜ペッシャンコ…ではどうすることも出来ないじゃないか」…。  ここで「何から、何を、どれだけ守るのか」について考えてみよう。地震動による被害はその規模 (マグニチュード)と震源距離で決まる。地震の強さ別の一般的被害イメージを大雑把に言えば次の ようなものである。震度4以下では被害はまずない。震度5では普通の建物なら倒壊しないが、不安 定な備品・器物は転倒落下する。若干の出火やガス・油漏れ等の二次災害がある。死者は少ないが負 傷者はかなり出る。震度6では老朽・不良建物が到壊し、ほとんどの備品・器物は転倒落下する。二 次災害が多くなる。死者・大けがは増え、逃げるときの軽傷者はかなり増える。震度7では普通の建 物でも傾斜やある程度の破壊があり得る。老朽・不良建物ならガラガラッ〜ペッシャンコとなる。死 者・大けがが多くなる。二次災害や道路・ライフライン等の公的施設破壊が多くなる。  次に地震国日本での大雑把な地震遭遇率は、震度5は十年単位、震度6は百年単位、震度7は千年 単位といえよう。つまり、震度5にはいずれ出会う、震度6、7には出会わないで済むかもしれない。 (ある程度科学的に予想されている東海地震での静岡県のような特殊の場合は除く)  そこで地震対策を次の3段階に分けて推進することを提案したい。 @ 震度5で死人・大けがは出さない。二次災害は出さない。 A 震度6で瞬間死亡は出さない。二次災害は出しても敷地内に止める。 B 震度7で瞬間大量死亡は出さない。大型の二次災害は出さない。 まず、@の対策を実施しその徹底を見極めてから、Aの対策を実施し、最後にBの対策に移ればよい。 中長期的計画の中で進めていけばよい。(費用的な問題や技術的な問題もある) @の対策ができたと ころでもし震度6の地震が来てもその対策はかなり有効に働き、震度7でもそれなりに効果がある。 決して無駄にはならない。(阪神大震災のときでもそれなり効果はあった) ここでは@の震度5対策 の概容について考えてみよう。 2.ハード(物的)対策 @ まず建物・大型施設は“普通のものなら倒壊しない”ということで、念のための目視検査をする だけで足りよう。「傾いているもの」「揺れるもの」「基礎・根太・柱・梁…にゆがみ・ゆるみ・ヒ ビ・腐食…があるもの」「無理な増改築を重ねたもの」「崖側や埋め立て地」…素人が見ても分るよ うなものは“普通”ではないので、専門家の耐震診断を受けることである。命が危ないかもしれない。  A 次に事務所・作業現場共通して大切なものは備品・器物の転倒落下防止対策である。ロッカー・ キャビネット・本棚・工具棚・配電盤…等たんす型のものは必ず倒れると考えておこう。大けがの原 因となる。場所替え、固定、中身の移し替え…が必要である。  お勧めは固定である。備品頂部をL字金具で柱や壁間柱へのビス止めが最高、次が鉄鎖やベルトに よる同様の固定、その次がアンカー・ボルトでの床止め(強度確認が必要)である。ネジ伸縮式など のつっかえ棒で天井に固定する方法は外れやすいので勧めない。背の高い一本物の備品を天井に固定 するなら、天板面全域と天井との間にぎっしり詰め物をする方が外れ難く、倒れ難い。(美観が大切 ならその詰め物の側面を囲って化粧する)  測定器具台車・コピー機・金庫・冷蔵庫…等キャスター付き重量器具は壁等に当って逸走する危険 があるので、その背面で壁等にフック付き鎖で固定しておくとよい。天井部のダクトや釣り下がり物 は固定する。棚物は下ろす。事務机は隣同士脚と脚とを紐で緊縛しておけば倒れない。机上のパソコ ン類は鎖やベルトでその紐と結んでおけば横走りして人を傷付けたり、データ破壊しなくて済む。も ちろん机の下は緊急退避場所として整理しておく。  作業位地近くの嵌め殺し窓のガラスには透明フィルムを貼っておくか、常時レース・カーテンをし ておく。天井灯の固定具合は点検・補強しておく。  現場の保安設備(ボタン・スイッチ・バルブ・レバー…)には名称と操作方向矢印を朱記しておく。 作業通路付近の積荷は位置移動しておく。倉庫の製品山など倒壊方向が決まっている場所では、安全 サイドの床面にグリーン・ゾーンをペイントしておく。  以上を実施しておけば、地震による直接的な人身被害はかなり防げる。これらを金を払って専門業 者にやってもらってはツマラナイ。お中元に貰った防災袋はいつのまにか置き場所さえ忘れるように、 他人に自分達の防災工事をしてもらっても防災意識は育たない。何をどうするかについても、自分の 命の問題として皆にわいわいがやがや話合ってもらう。少々的が外れていても構わない。そして皆で 施工してもらう。少々不細工・不手際でも構わない。見栄えよりも頑丈さ優先である。そしてお互い に自分の分担部分についての苦心のポイントを発表しあってもらう。照れくさそうに、恥ずかしそう な顔をしていても、内心は“私がやったんだから、地震が来ても大丈夫!”である。お好み焼きや手 巻き鮨は自作に優る物なしである。一生懸命作った我が作品については決して悪評せず、むしろ自慢 したがるものである。お好み焼きが少々焦げても“香ばしい”と言い、手巻き鮨が少々はみ出しても “カッコイイ”と思うものである。味もいいに決まっている。地震対策も自信大作になり、いざとい うときに恐怖狂乱にならずに済む心の支柱になるのである。  B 消火、救助、救急、連絡、点検、対策本部、帰宅、避難生活…等に必要・有用な防災グッズの 備蓄についても絶対の基準はない。あればあったに越したことはないが、備蓄コストとの見合いで決 められるものである。職場仲間と上司とが話合って、年年充実化していけばよいものである。なまじ いの専門的知識よりも、素人同士が自分達の命の問題として、いざという事態のイメージングの中か らリストアップしたものが一番である。 3.ソフト(人的)対策 @ いざというときとは状況が不定である。だから“臨機応変”がよいというのは危険な発想である。 いざというときは物も人も情報も不確か・不十分な状況である。冷静な合理的な判断・行動は期待し 難い。だから平時において徹底議論した原則的基準の確立が必要である。“人命優先”とか“近隣へ の迷惑防止”などの経営哲学に基づくもので、「○○をせよ」「××はするな」のような端的簡明な “我社ルール”である。「もし△△なら□□せよ」のような条件文や抽象的表現は迷いや乱れの元と なる。項目数は1か2がよい。おおくて3までである。全社のものと各職場ごとのものとを全員参画 型で作成し、毎年見直しをする。  A 「危機においては冷静に行動せよ」とは予め決めておいても、その時命令しても効果がない。 そのために反復的に“前向き(対抗攻撃的)訓練”をする。消火・救助・救命・連絡・誘導等“自分 が何かに向かって働きかける行動の訓練”である。決められた行動を一生懸命にせざるをえない役割 状況にあっては、人は半狂乱にはなれないものである。それぞれの技術のレベルを高めることにも意 義はあるが、何よりも役割行動意識を体得させることに大きな意味がある。その意味で“後向き(放 棄逃亡的)訓練”となる避難訓練は勧めない。訓練すればするほど“地震〜怖い〜逃げろ”が脳裏に 刻み込まれ、“なすべきことをせず、なすべきでないことをする”パニック集団を作りかねない。避 難訓練をしてもいざというときに整然と退避するとは期待し難い。  オフィスのパニック防止のためには“地震だ!”の合図の元に、全員が一斉に「パソコンを緊急停 止−机の下に身を隠す−その位置で順次、大声で姓名・状況を報告する」の訓練をする。こうした後 には、もう悲鳴が出なくなり、「パニック〜暴走〜けが」の連鎖が起き難くなる。  訓練の場合も、その後に反省会でなく自慢会をやるとよい。気を付けた点・頑張ったところ・以前 より良くなったこと…なんでもよい。“欠点〜反省〜惨め〜嫌な気分”のネガティブ・イメージ回路 では訓練内容は苦手となり、抑圧されて実力にならない。“小さな努力〜小さな成功〜小さな自慢〜 小さな自信”のポジティブ・イメージ回路は反復するほど強固な実力に焼き付けられる。  B 地震防災規定や被害点検基準・安全確認の連絡基準・臨時対策本部設置基準…などもあればあっ たにこしたことはない。しかし、苦労して参考書を写して分厚いものを作ってもトップの安心、書棚 の肥やしになるだけで、いざというときにめくっている暇はない。突然の大地震を社員達が何とか切 り抜けてくれさえすれば、その後のことは手際は悪くとも何とかなるものである。  “紙づくり”そのものは地震対策ではない。その前に生命財産を守るためにやるべきこと・やりた いこと・やれることがあろう。それらのあとに協議・制定してもよいものである。  大地震はいずれ来る。地震は防げないが被害は減らせる。備えあれば憂いは減る。未来を予測して 費用対効果のよい手を打つのが経営である。社員の力を使って社員の意識を変え、行動を変えるのが 名マネージメントである。防災は自助7:互助2:公助1の割合である。その意味は大地震の後によ く分る。ただ後悔しても元には戻らない。後悔すら出来ない(生き残っていない)ことのないように、 “やればやっただけのことはある手作り地震対策”を、自分のために、仲間を巻き込んで今からやろう。 それが仲間のため、会社のためでもある。  全員参画・参加型の手作り地震対策活動は労働安全にも、品質管理活動にも、作業改善運動にも役立 つ。 特に熟年と若者のギャップを埋めるのに大きな効果がある。 (以上)

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