ビル・オフィスの地震被害と対策の方向     ヤルデア研究所 伊東義高


(1) 近代化・都会化・ビル化…と地震被害 ・近代の文化・文明は高機能化を目指して都会集中し、そこにはビルが林立する。 ・都会は地震被害の大きな山岳・峡谷には作られず平坦な陸地に作られる。 ・平坦地にも軟弱低湿地もあるが、近代ビルは深層の岩盤に立脚建設される。 ・津波襲来の海浜・川縁でもビルの中高層階なら津波被害から逃れられる公算が大きい。 ・建物建築も1971年、1981年…と建築基準法が改正強化されてきている。 ・ビル建築も文化・文明の流れに乗って耐震化・免震化・制震化されてきている。 ・近代ビルでは大地震で崩壊することはまずない。(不良工事・特殊条件を除く) ・室内の家具什器類の挙動は地震波・ビル構造・階層・家具類特性で千差万別である。 ・耐震構造の中高層ビルは柔構造で建物への地震エネルギーを巧く分散・吸収する。 ・柔構造はビル自体がゆっくり大きく、撓ることで応力集中による破断を免れる。 ・部屋の中の家具什器類と建物の固有周期は異なり、地震による挙動は相違・矛盾する。 ・免震・制震はともかく、耐震構造の中高層ビルでは壷の中の賽のように乱舞する。 ・家具什器類は材質・形状・寸法・重量…位置・取付け…により凶器性も異なる。 ・内装材・家具類・電気用品等は剥離落下・乱舞転倒・転移逸走…狂乱状態となる。 ・大地震でビル崩壊による死傷者は減るが、家具什器類による死傷者数は増える。 ・今後のビル・オフィスやマンション家庭における地震対策のポイントは家具固定である。

(2)  壁立て掛けの収納家具類の挙動予想と対策 ・ビルのオフィスの共通イメージは壁際にずらりと並んだ各種の収納家具類である。 ・本棚型、書類キャビネット型、整理ダンス型…大型、中型、小型…各種である。 ・上下2段型・3段型、引出し付き・ガラス戸付き、引き戸・観音扉…多様である。 ・収納物ぎっしりのもの、合成重心の高いもの、天板に物を置いてあるもの…さまざま。 ・建物と挙動特性の異なる収納家具類は地震動で、てんでに踊り、傾き、倒れたりする。 ・地震エネルギー、波長成分、建物・家具の物理特性、配置状況…により挙動が異なる。 ・たとえ震度6、7であっても、家具類ががたついたり、うごめくだけの場合もある。 ・家具類の2段・3段がばらばらに踊ったり、家具同士が弾き合って倒れることもある。 ・壁と収納家具の相互の水平震動がぶっつかり合うと反発し合って、激しく前倒する。 ・収納家具前の席にいる事務員は重量家具の転倒を後頭部にまともに受け、重傷となる。 ・収納物の飛び出しぐらいならともかく、スチール製の収納家具類の衝撃は危険である。 ・部屋中に散乱する倒れた家具類、収納物品、ガラスの破片等は直後の行動の支障となる。

・収納家具類を壁に固定してあれば、家具類はがたつくだけで倒れ掛かる危険はない。 ・収納物の飛び出し落下や引出し突出ぐらいはあっても、大きなケガはほとんどない。 ・チェーン連結は揺れが激しく、つっかえ棒は外れる。金具固定に越したことはない。

(3) 事務机や卓上電算機の挙動と対策 ・事務机は単独配置では底辺短辺と重心高さから地震で倒れる確率はきわめて小さい。 ・しかし卓上計算機などの重量物を載せると、合成重心位置が高くなり倒れる可能性。 ・また田の字型など相互隣接させると、地震動でかち合い反発して倒れることがある。 ・走ったり倒れたりしなければ潜ってシェルターとなるが、倒れてきたら凶器となる。 ・卓上計算機はがたつくだけ、下に落ちる、時には勢いよく横につっ走ることがある。

・田の字型事務机は相互に緊縛、連結して、これと卓上計算機を連結すると安全である。 ・次善策として、卓上計算機を机の天板に強力な粘着性スポンジで固定する方法もある。

(4) キャスター付き事務機類の挙動と対策 ・キャスター(車輪)付きのキャビネット・大型複写機・床上テレビは曲者である。 ・地震動の主成分である水平動に対しては、車輪が滑車となり自らは動かないことがある。 ・水平動のうちの、前後動成分と左右動成分の兼ね合いで、その場で回転することがある。 ・上下動成分により床が起伏波打ちをする際に蹴りが働くと、床面を走ることがある。 ・壁際に置かれたキャスター付き器具が壁と衝突反発すると、床面を逸走することがある。 ・キャスター・ロックやキャスター載せ板を用いれば、普通の無固定家具と同じとなる。 ・普段人のいない場所にあるものはともかく、人近くのものは壁に連結する必要がある。 ・器具類の背面と壁をチェーン連結すれば壁と激突して損傷しても、逸走することはない。

(5) 窓ガラス・出入り口の扉・天井灯などの挙動と対策 ・耐震高層ビルは基本的に鉄骨構造による柔構造で、地震に撓ることで破壊を免れる。 ・建物の壁が撓んでも窓ガラスや扉は変形に追随できずに破損したり、かしめられる。 ・窓ガラス(特に嵌め殺しの窓)や内装材・外装材・天井板は破損・剥離・落下する。 ・窓ガラス対策はは飛散フィルムを張りが上策で、カーテン締め切りが次善策である。 ・出入り口のサッシュ変形による開閉不能への対策は建築時点での対策が必要である。  (壁とサッシュの間に大きなスペースをとる、感震器付き自動開扉装置の作り付け)  (左右上下に揺れている最中に出入り口の扉を開けるのは却って危険な行動である) ・和洋建築のほとんどが吊り天井で、地震により撓み、天井蛍光灯が剥がれ落下する。  (天井の広さ、壁からの距離、天井板の材質…で異なるが長尺管ほど落下しやすい)  (既存の天井蛍光管の決定的対策はないが、耐熱シリコンテープで管端を固着する)

(6) コンクリート・ビルにおけるスチール家具固定 ・地震による重大な災害は主に建物崩壊により、大量災害は主に家具転倒による。 ・天災だから企業責任はない…では済まされない。防げるものは防ぐ… ・社員達も全てお任せ…ではなく、自助減災・互助減災が大切である… ・完全無欠は無理な注文…そこそこの対策でもしないよりましである… ・誰でもその趣旨は分かっても「面倒」「難しい」「見苦しい」…と敬遠されている。 ・面倒………家具等の配置計画・家具や部屋構造調査・金物や工具手配… ・難しい……家具の構造部材・固定用金物・部屋部材の強度のバランス… ・見苦しい…瀟洒な内装、新品の家具…それに露出した金物は不釣合い… ・家具類の耐震固定は場所の重要度に応じて耐震性・便宜性・美観性を考慮する。 ・耐震性……(1)壁に金具固定、(2)壁に鎖連結、(3)天井・床面に摩擦止め… ・便宜性……日常利用に支障の少ない配慮(1) 向き、(2)位置、 (3) 金物… ・美観性……(1)金物類が見えない、(2)見え難い、(3)美しい金物を使う… ・コンクリートの部屋へのスチール家具・高級家具の固定は一般に素人には難しい。 ・全部外注…耐震性・便宜性・美観性バランスは良いが、人任せ体質… ・一部外注…自分達も部分的に参加することで防災意識が育っていく… ・全部自前…前向き姿勢は良いが、耐震・便宜・美観に問題が出易い… ・個別家具什器類の地震対策の具体的方策についてはそれぞれの項目を参照されたい。

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